物忘れでお困りの方はご相談ください
認知症は、加齢に伴い生じる高血圧などと同じようによくある病気です。
厚生労働省の発表では、65歳以上の約7人に1人は認知症で、2025年には高齢者数の増加に伴い約5人に1人が認知症になるといわれています。
物忘れ外来でどのようにして診断するのですか?
認知症診断のためにふさわしい質問や会話を通じて診断に必要な情報を得ます。付き添いの家族と本人に、症状や最近の生活の様子や飲んでいる薬などを聞きます。メモしておくとよいでしょう。身体所見を取るために神経学的診察を行います。長谷川式簡易認知症テスト(HDS-R)や、Mini-Mental Stae Examination(MMSE)などの記憶力や脳機能を判断する簡単なテストを行います。頭部MRI検査を行い脳の病状を画像診断し萎縮の程度なども評価します。必要時採血も行います。画像診断のみでは認知症診断はできません。臨床像全体をみて診断していきます。
認知症とは?
認知症とは物忘れなどの認知機能障害により日常生活に支障をきたすようになった状態のことをいいます。認知機能障害には記憶力の低下のほかのも、判断力や手中力の低下、言葉がうまく出ない、道に迷ってしまうといった様々な症状が含まれます。
認知症の原因となる病気はいくつかの種類がありますが、多くはまだ根本的な治療法がありません。
認知症は進行性の病気のため、時間の経過とともに悪化していきます。しかし、早期に発見し適切な予防策や治療を行えば、症状の進行を遅らせ、健康でいる期間を長くすることができます。
認知症になる一歩手前の状態を軽度認知障害(MCI)と呼びます。この時点で診断することで、早めの対応が可能になり、日常生活に支障が少ない状態を長く保つことができます。このため認知症の初期のサインを見逃さずにできるだけ早期に診断することがとても重要になります。
認知症の種類
認知症とは物忘れを起こす病気の総称で、その原因となる病気はさまざまです。認知症の原因として最も頻度が高いのが
アルツハイマー型認知症で、全体の5~6割をしめるといわれています。アルツハイマー病に次いで頻度が高い、
レビー小体型認知症、
脳血管性認知症、
前頭側頭型認知症を合わせて4大認知症疾患といわれています。認知症はその原因によって、治療薬や対応方法が異なります。そのため、できるだけ正確に判断することが、適切な対応のために重要になります。
認知症の症状
認知症の症状は、認知機能低下によっておこる「中核症状」と行動や性格などに変化がみられる「行動・心理症状(BPSD)」の二つに分けられます。
中核症状の種類
- 記憶障害:少し前のことを思い出せない、同じことを何度も聞いたり話したりするなど
- 見当識障害:日付や曜日がわからなくなる、道に迷う、出来事の前後関係がわからなくなるなど
- 複雑性注意障害:注意力を維持できない、テレビを見ながら会話ができないなど
- 実行機能障害:料理を失敗する、仕事や家事の段取りが悪くなるなど
- 言語障害:言葉を正しく理解したり、表現したりすることができなくなるなど
- 知覚・運動障害:道具を適切に使用できなくなるなど
- 社会的認知障害:社会性や協調性がなくなる、人の気持ちを正しく理解できないなど
行動・心理症状(BPSD)の種類
- 焦燥・不安:一人になることを怖がる、寂しがるなど
- 抑うつ:ゆううつでふさぎ込む、何をするにも億劫がる、周りのことに興味を示さなくなるなど
- 暴言・暴力:イライラして怒りっぽくなり、大声を出したり暴れたりするなど
- ものとられ妄想:自分のものを誰かにとられたと思い込むなど
- 徘徊:目的なく外を歩き回るなど
- 不潔行為:入浴しない、排せつ物をもてあそぶなど
- 異食:食べてはいけないものを食べるなど
- 睡眠障害:昼夜が逆転するなど
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症とは
アルツハイマー型認知症とは脳の中にアミロイドβと呼ばれるたんぱく質が異常にたまる病気といえます。たまる過程である形のアミロイドβやタウたんぱく質を介して神経細胞のはたらきを悪くし、最終的に神経細胞が死んでしまいます。その結果、物忘れや考える能力の低下といった症状が出てきます。次第に薬の管理やお金の管理といったことができなくなり、身の回りのことができなくなってしまう病気です。
もの忘れ症状だけで日常生活は人の助けを借りなくても一人でできる(自立)状態を「軽度認知障害(MCI)」、物忘れや考える能力の低下のために日常生活に人の助けが必要な(非自立)状態を「認知症」といいます。アルツハイマー病は正常→軽度認知障害→認知症と進行していきます。おおむね年単位のゆっくりした進行です。
アルツハイマー型認知症の症状
- 探し物が多い、同じことを何度も聞き返す(近時記憶障害)
- 朝食の内容や昨日の行動が答えられない(エピソード記憶障害)
- 日付や場所がわからない(失見当識)
- 掃除の仕方や鍵の開け方がわからない(手段的ADLの障害)
- 物忘れを取り繕うような言動がある(取り繕い)
- 質問を受けた時に家族のほうを振り返る(振り返り現象)
アルツハイマー型認知症の重症度
軽度認知症(発症後1~3年前後 個人差あり)
最近の出来事や情報の記憶することが困難(記憶障害)になり、「同じことを何度も話す」「ものを置いた場所を思い出せない」といった症状が現れます。同じものを何度も買ってきたり、料理の味付けが大きく変化したり、火の消し忘れなど簡単な家事のミスがあり、周囲の家族にとって明らかな異変を感じられる段階です。また、複雑な内容を理解することが難しくなり(判断力・理解力の低下)、「日にちや時間がわからない」といった時間に関する見当識障害を生じることもあります。人によっては認知機能低下に不安を感じ、抑うつ的になることもあります。
- 初期の段階では家族や周囲の支援があれば、自立した生活を送ることが可能です。
中等度認知症(発症後5~9年前後 個人差があり)
数時間~数分前のことも覚えていないなど、記憶を保持する時間がさらにみじかくなります(記憶障害の進行)。財布や通帳を「盗まれた」と物盗られ妄想がみられることがあります。また、場所に関する見当識障害が進み、自分のいる場所がわからなくなることが増えてきます。言葉が思うように出ない(失語)や着替えがうまくできない(着衣失行)などがおこります。落ち着きなく歩き回ることや徘徊が始まるのもこの時期です。「自分の意思をうまく伝えられなし」「相手の話を理解できない」といったもどかしさからイライラしたり、うつ状態になったり、時に興奮したり、怒りっぽく怒りっぽくなったりします。まれに暴言・暴力行為に至ることがあります。トイレに間に合わない、場所がわからないなどで排泄の失敗がおこってきます。
- さらに症状が進行して日常生活への障害が顕著になると、周囲の介助が必要になります。
高度認知症(発症10年以上 個人差あり)
表情が乏しくなり、反応が少なくなります。時間や場所だけではなく、身近な人の顔や自分の名前もわからなくなります(人物の見当識障害)。人との意思疎通が困難になって家族のことも認知できなくなります。一人で排泄するのが難しくなり、失禁が増えるほか、異食などを生じることがあります。飲み込む力の低下により嚥下障害を生じることがあります。後期になると次第に言葉を発しなくなり(高度の失語)、立つ、歩くといった運動機能の障害も進みます。食事や排せつ、食事などすべてに介助が必要で、最終的には寝たきりになる場合があります。また、肺炎などの感染症のリスクが増えてきます。
アルツハイマー型認知症の画像検査
頭部MRI検査
脳の形態や萎縮の程度を調べます。アルツハイマー型認知症では内側側頭葉特に海馬の萎縮を認めます。
VSRAD(ブイエスラド)検査は、海馬傍回付近の萎縮を客観的に評価する検査です。
脳SPECT検査
脳の血流を調べる検査です。アルツハイマー体型認知症では両側側頭葉、頭頂葉および帯状回後部の血流低下を認めます。
アミロイドPET検査
微量の薬剤(放射性医薬品)を注射し頭部を断層撮影。アミロイドが脳内に蓄積しているかを確認する検査です。アルツハイマー病では前頭葉、後部帯状回、喫前部のアミロイドの蓄積が認められます。
アルツハイマー型認知症の治療
アルツハイマー型認知症治療薬
現在、抗認知症薬は、アルツハイマー型認知症に対して5種類の薬が保険適応となっています。
ドネペジル塩酸塩(アリセプト®)ドネペジル経皮吸収型製剤(アリドネパッチ®)
ガランタミン(レミニール®)
リバスチグミン(イクセロンパッチ®・リバスタッチパッチ®)
メマンチン(メマリー®)
コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬があり、どちらも脳内で情報を伝える神経細胞に働きかける作用があります。コリンエステラーゼ阻害薬は、神経伝達物質である脳内のアセチルコリンが減少するのを防いで神経細胞と神経細胞の連絡をよくする薬です。NMDA受容体拮抗薬は、脳内の過剰なグルタミン酸(神経伝達物質)のはたらきを抑えて、グルタミン酸による神経細胞の過剰な興奮を抑える作用があります。これらはアルツハイマー病の物質的な変化を食い止めるものではなく、症状の進行を抑えるという効能があります。
アルツハイマー型認知症に対する新薬:抗アミロイドβ抗体薬
現在、抗アミロイドβ抗体薬は、アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度認知症に対して2種類の薬が保険適応となっています。
アルツハイマー病における原因物質と考えられるアミロイドβを除去することにより、進行を遅らせる効果が期待できます。
ただし、アミロイドβタンパク質がたまっている方にしか効果はありませんし、重症度が高い方には効果がありません。
また、重要な副作用も知られているため、治療する前に、認知機能検査、バイオマーカー検査(脳脊髄液検査やアミロイドPET)や頭部MRI検査など様々な検査によって条件をクリアした方のみが使用できます。
アルツハイマー病の新薬は「アミロイドカスケード仮説」という考え方をもとに開発されました。
アミロイドカスケード仮説:アミロイドβは正常な脳でも作られていて、作られるスピードと分解されるスピードのバランスが保たれています。ところがバランスが崩れると、アミロイドβの量が過剰になり、神経細胞の外で徐々に大きなかたまりになっていきます。アミロイドβのかたまりは神経細胞のはたらきを鈍らせます。やがて神経細胞が死に、神経細胞の数が減ってくると脳が委縮してきて、認知機能障害が現れます。アミロイドβは症状が出る15~20年前からゆっくり時間をかけてたまっていることが知られています。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症とは
αシヌクレインとよばれるレビー小体が神経細胞に蓄積するのが原因で生じる病気です。レビー小体型認知症では脳幹のみならず大脳の広い範囲にレビー小体が蓄積します。症状は多彩で、幻視のほかに錯視と呼ばれるものの見間違いや妄想、抑うつやうつ病を合併したりします。自律神経症状の頻度も高く、便秘や頻尿や起立性低血圧(立ちくらみ、時に失神)などがみられます。症状には波があり、日や時間帯によってはっきりしている時とぼんやりしている時があり、認知機能が変動するのが特徴です。
はっきりしている時は普段と変わらないため、発見が遅れ、診断がつきにくいことがあります。気になる症状があれば早期に受診することをおすすめします。
レビー小体型認知症の経過
レビー小体型認知症は、65歳以降の発症が多いのですが、早い方は40歳代で発症することもあります。老年期の認知症の約10~20%を占めるといわれています。男性の発症が多く、その比率は女性の約2倍程度です。
レビー小体型認知症の進行速度は様々ですが、中には進行が早いケースもあり、早期発見が非常に重要です。現在、レビー小体型認知症を完治させる治療法は見つかっていませんが、早期に発見して治療を行うことで、進行を緩やかにすることが可能です。
レビー小体型認知症の症状
- 被害者意識や思い込みが強い(妄想)
- 実際にいない人物の姿などがありありと見えたりする(リアルな幻視)
- 気分の沈み込みが激しい、意欲がわかない、不安で落ち着かない(うつ)
- 動作や歩行がゆっくりでよちよち歩きで転んだりする(パーキンソン症状)
- 会話や反応の「しっかり」と「ぼんやり」している時が変動する(覚醒度・認知機能の変動)
- 薬剤に過剰に反応することがある(薬剤への過剰反応)
- 夜間に奇声や寝言が多く、寝床で手足をばたばた動かすことがある(レム睡眠行動異常)
- 起立性低血圧、立ちくらみ、失神、尿失禁、便秘、頻尿 寝汗(自律神経症状)
発症前からレム睡眠行動異常、抑うつ、嗅覚障害などがみられることがあります。レム睡眠行動異常はパーキンソン病でもみられますが、認知機能が低下する何年も前から、こうした睡眠時の異常行動が現れることがあります。早期発見の手掛かりになることがあります。気になる症状がある際は、お気軽にご相談ください。
レビー小体型認知症の画像検査
頭部MRI検査
脳の萎縮の程度や脳梗塞や脳出血などの異常がないかを調べます。レビー小体型認知症は、脳全体に委縮がみられますが、アルツハイマー型認知症に比べ、記憶をつかさどる海馬の萎縮は軽度のことが多いです。
脳SPECT検査
脳の血流を調べる検査です。レビー小体型認知症では頭頂葉や後頭葉の血流の低下が認められることが多いです。
ドパミントランスポーターシンチグラフィー検査
微量の薬剤(放射性医薬品)を注射し頭部を断層撮影。ドパミン(神経伝達物質)がうまく取り込めているかを確認する検査です。レビー小体型認知症ではドパミン神経細胞が減少するため、医薬品の脳への集積が低下します。
MIBG心筋シンチグラフィ検査
微量の薬剤(放射性医薬品MIBG)を注射し心臓を断層撮影。心臓を支配する自律神経の機能を調べる検査です。レビー小体型認知症では、レビー小体が心臓を支配する交感神経にも蓄積して侵されるため、医薬品の心臓への集積が低下します。
発症初期からこの検査で異常がみられるため、他の認知症との鑑別に役立ち、診断の決め手になることがあります。
レビー小体型認知症の治療
現時点でレビー小体の蓄積を除去する根本的な治療はありません。各症状に対する対症療法を組み合わせて行います。
認知機能低下や変動、幻視、妄想、レム睡眠行動異常などの症状に対しては、脳内の神経伝達物質の減少を防ぐコリンエステラーゼ阻害薬が第一選択となります。
ドネペジル(アリセプト):認知機能低下や幻視に効果が期待できます。
コリンエステラーゼ阻害薬にはドネペジル(アリセプト®)、ガランタミン(レミニール®)、リバスチグミン(イクセロンパッチ®またはリバスタッチ®)がありますが、レビー小体型認知症ではドネペジルのみが保険適用となっています。
抑肝散:幻視に対して、漢方の抑肝散が有効な場合があります。
妄想や興奮が強い時:過敏症に注意しながらクエチアピン(セロクエル®)などの抗精神病薬によるコントロールを検討します。
うつ病の症状
震えや筋肉のこわばりなど、神経伝達物質のドパミンの不足によっておこるパーキンソン症状には、レボドパ(メネシット®、マドパー®)など抗パーキンソン病薬の服用を検討します。特に歩行障害が目立つ場合には、抗パーキンソン病薬で2018年に認可されたゾニサミドが使われます。
けいれんを抑える作用のあるクロナゼパム(リボトリール®)を使用することがあります。
他の認知症に比べると薬の副作用が生じやすいので注意が必要です。
抗精神病薬で体の動きが悪くなったり、総合感冒薬や尿の薬で幻覚などの症状が悪化したりします。いろんな薬に過敏傾向があり、新しい薬を使い始めて調子が悪くなった場合はすぐに担当医にご相談ください。
レビー小体型認知症の支援の基本
日常生活のケアでは、認知機能の変動の理解が必要です。調子のいい時悪い時があり、調子が悪い時は機嫌が悪くなったり、ふさぎ込んだりしがちですが、病気のために起こっている症状です。そんな時は無理に働きかけずに、そっと見守ってあげることも大切です。
幻視は、脳の誤作動で起こるものです。症状が起きた時は、「そんなことはない」と頭ごなしに否定するのではなく、本人の驚きや恐怖などの感情を受け止め、理解しようとする姿勢が大事です。「あそこに男の人が立って、こっちをみている」という場合は、家族や介護する人が一緒に近づいたり、触れたりして、幻であることを理解してもらえば、患者さんも安心します。不安が強い時は一人にしないようにしましょう。幻視を減らすには住環境の整備も有効です。幻視は夜間やうす暗い場所で起こりやすいため、夕方になったら早めに明かりをつけて、影ができないようにするといいでしょう。また、ハンガーにかけた洋服や肖像画や絵、電気コードなど錯視などの誤認の原因となりやすいものを減らすことも効果的です。レム睡眠行動障害では、無理に目を覚まさせると現実と夢を混同して、さらに興奮することがあります。落ち着くまで距離をとって見守りましょう。転倒けがをふせぐためにベッドから布団に変える、寝床の周りに物を置かない、介護者は同じ部屋で寝ないといった工夫をしましょう。
パーキンソン症状により動作緩慢や歩行障害が現れると、小さな段差や床に置いたものに躓きやすくなります。段差がわかるように注意を促す目印をつけたり手すりを設けたりすることもできます。できるだけ室内をシンプルなデザインにまとめましょう。転倒によるけがの危険性を減らす効果もあります。
レビー小体型認知症の国際診断基準
1966年のレビー小体型認知症診断基準
以下の重要なコアの症状のうち、2つあれば、ほぼレビー小体型認知症が疑われる。
日や時間によって頭がはっきりしている時とボーっとしている時があるというような認知機能の変動がある。
具体的にありありとした幻視がある。最も重要視されていてレビー小体型認知症の最たる特徴。
パーキンソン病と同じような症状が出てくる。表情が乏しく、前傾姿勢となり、歩くのが遅く、小刻みになる。
診断を指示する症状
- 転びやすい
- 失神、意識を失う
- 幻覚(幻聴、体感幻覚など)
- 妄想(被害妄想、罪業妄想、嫉妬妄想など)
- 抗精神病薬への過敏性
2005年のレビー小体型認知症診断基準の改定版
レビー小体型認知症ではアルツハイマー型認知症と違い初期には記憶障害が目立たないこともしばしばある。注意書に明記される。
コアの症状一つと、示唆的特徴の一つとがあればレビー小体型認知症が強く疑われる。以下の示唆的特徴が加わる。
- レム睡眠行動異常(夜間、睡眠時に夢を見て大声をあげたり、ばたばた暴れたりする)
- 抗精神病薬の過敏性
- 大脳基底核でのドーパミントランスポーター取り込み低下(DAT スキャン)
その他の支持的特徴として以下が加わった。
- 抑うつ状態(意欲低下が目立つ)
- 自律神経症状(起立性低血圧、食後低血圧、頑固な便秘、頻尿、発汗)
- 画像検査(特にMIBG心筋シンチグラフィー)
脳血管性認知症
脳血管性認知症とは
脳血管性認知症は認知症の方の10~20%程度にみられ、アルツハイマー型認知症の次に多い疾患です。生活習慣病によっておこりやすい脳出血、脳梗塞などのために、脳の機能が部分的に低下することで起こる認知症です。慢性的に血流が悪い状態が続くと認知機能が低下して認知症に至ります。
脳血管性認知症の症状
- 脳梗塞や脳出血をおこしたことがある(脳血管障害の既往)
- 高血圧、糖尿病、脂質異常などの生活習慣病がある(リスクファクター)
- しゃべりにくい、飲み込みにくい、歩行障害や麻痺、失認などの症状を伴う(脳梗塞などの症状)
- 抑うつ状態になったり意欲が低下したりする(抑うつ状態)
- 感情のコントロールができない・突然泣き出したりする(感情失禁)
- 順序通り物事を実行することが困難になる(遂行機能障害)
- 記憶がよかったり悪かったり変動する(症状の変動)
- 物忘れがひどいが理解力は保たれている(まだら認知症)
- 脳血管障害を起こすたびに悪化する(階段状の進行)
脳血管性認知症の治療
- 生活習慣病の治療を行うことで脳血管障害の再発を予防します。
- 高血圧症、脂質異常症、糖尿病はどれも脳血管病変を起こしやすく、薬物療法とともに、食事や運動、禁酒、禁煙などの生活習慣の見直しを行います。
- アルツハイマー型認知症を合併していることもあり、その場合は抗認知症薬が使われることがあります。
- リハビリテーションによって脳を活性化し、症状の進行を緩やかにすることが可能だと考えられます。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症とは
前頭側頭型認知症の発症率は低いのですが、初老期(65歳未満)に発症することが多く、前頭葉と側頭葉が委縮していく病態です。残念ながら原因解明ができていません。記憶障害よりも、社会性の欠如や抑制が効かなくなる、同じことを繰り返す、他人に共感できないなど感情の鈍麻など症状は多彩です。これらの症状が緩やかに進行します。発症後6〜8年で寝たきりの状態となります。いわばわが道を行く認知症とも言えます。
前頭側頭型認知症の症状
- 人の気持ちが想像できず、自分勝手な行動を繰り返す(共感の欠如、脱抑制)
- 問題行動を指摘されても無頓着で、礼を欠く場違いな行動がみられる(共感の欠如)
- 同じ行動・行為を繰り返すがそれに苦痛を感じない(常同行動)
- 行動の抑制ができず、物をとるなど社会的に不適切な行動がみられる(脱抑制)
- 高齢になる前に症状が出る(65歳未満での発症)
前頭側頭型認知症への支援の基本
現在のところ有効な治療法は開発されていません。症状に対して向精神薬を処方する対症療法が主に行われています。
症状が多彩なうえに、盗みや興奮、暴力などの場合によっては軽犯罪となる行動が出ることもあります。有効な薬剤が少ないため、ご家族による介護の負担は心理的なものも加わり、とても大きいものとなります。
家族だけで抱え込まず、専門医や福祉サービスを利用し、情報を共有して連携していくことが大切です。
ケアの方法として、この病気の特徴である「何かにこだわる」「同じことを繰り返す」という常同行動を活用して、生活していくうえで困る行動を、日常生活に支障をきたさないものに置き換えていくことができる場合があります。
このような問題となる行動を新しい行動に変換するには、症状の出現する時間帯やタイミングを知って、その時間に、これまでの患者さんの生活から向いていると思われる作業や、楽しく取り組める活動や環境を考えるのがコツです。
もの忘れがありますが加齢によるものですか?認知症ですか?
認知症の定義はわかりにくいのですが、簡単に言えば「脳の障害で物忘れなどの認知機能の低下が生じ、もともとできていた日常生活に支障が出た状態」と考えてよいでしょう。
年老いた身内が「昨日の夕食何食べたっけ」というようなことを言ってくると、「認知症かな」と心配になりますよね。「夕食をメニュー」ではなく「夕食を食べたこと自体」を忘れてしまうような物忘れが出たら、認知症疑いが強くなります。本人が忘れたこと自体を認識できていない様子が見られる場合は、病院に行くタイミングだなと思ってください。
認知症による物忘れ
- 体験全体を忘れる(例:朝ご飯を食べたことを忘れる)
- ヒントを与えられても思い出せない
- 時間や場所などの見当がつかない
- 日常生活に支障がある
- 物忘れに対して自覚がない
加齢による物忘れ
- 体験の一部を忘れる(例:朝ご飯何食べたか忘れる)
- ヒントを与えると思い出せる
- 時間や場所などの見当がつく
- 日常生活に支障はない
- 物忘れに対して自覚がある
臨床の現場でも「今日はどういうことでお困りですか?」と尋ねても「私は困ったことはありません」と答えられることも多く病識がないのも特徴です。また、認知症(特にアルツハイマー型認知症)の方は理由にならない言い訳を言ったりして取り繕う様子がみられたり、発言するたびに同席者の方を向いて確認する振り返り徴候がみられます。「昨日の夕食は何を食べましたか?」と尋ねると「何食べたかな?」と隣の娘さんの方を向いたりします。このような兆候が認められたらまず認知症と考えてよいでしょう。礼節が保たれているのも特徴です。認知症が疑われた場合は医療機関を受診してみましょう。
認知症は治らない病気ですか?
認知症の症状を引き起こす病気は70種類以上あるといわれています。認知症の治療において、最初の診断はとても重要です。治療によって完治できる認知症もありますが、ほとんどの認知症は現在の医学では治すことができません。ただし進行を遅らせることはできます。
認知症の原因疾患が下記の場合完治できる可能性があります。
正常圧水頭症
脳室と呼ばれる髄液のたまっている場所が大きくなり脳を圧迫して起こります。認知症症状と歩行障害と尿失禁が特徴的な症状です。髄液を腹腔内に流してあげるシャント手術でよくなる可能性があります。
慢性硬膜下血腫
頭の打撲やケガなどの1~3か月後にゆっくりと頭蓋骨硬膜の内側に血がたまり血腫となり脳を圧迫することで起こります。30分程度の手術で血腫を洗い流すことで劇的に改善します。
脳腫瘍
脳にできた腫瘍により圧迫されて起こります。手術により治療可能です。
甲状腺機能低下症
新陳代謝を促すホルモンの低下で起こります。薬物療法が有効です。
ビタミンB1、B12欠乏症
ビタミンB1、B12が欠乏して起こります。薬物療法が有効です。
薬剤の副作用
ステロイド剤、胃潰瘍の薬などの副作用で起こります。薬剤を見直す必要があります。
認知症の症状に気が付いたら、すぐに医師に相談することが大切です。
認知症にならないように予防ができますか?
現時点では認知症を根本的に治せる薬はありません。だからこそ、「ならないようにする」ことが重要です。認知症の一番の要因は加齢変化なので、完全に予防しきれるものではありません。
聞こえが悪いと情報が入りにくくなりコミュニケーションがしづらくなり、認知症のリスクの要因となります。社会参加がないことも脳に刺激がなくなるのでリスクにつながります。難聴は最大の危険因子とされており補聴器の使用を奨励し、過度の騒音曝露から耳をまもりましょう。頭部のけがから脳をまもる必要があります。その他は実はそれほど意外なものではありません。喫煙、過度の飲酒をさけて、適度な運動を行い、肥満にならないような適正体重を保ち、高血圧や糖尿病があれば管理をしていくことが重要です。一般的に言われている健康的なライフスタイルを送っていれば、認知症のリスクは低くなるということです。
認知症予防の12のポイント
2017年国際的に権威のある「ランセット」という医学雑誌で認知症リスクについての発表がありました。生涯にわたる認知症リスクのうち、喫煙、抑うつ、運動不足などを改善できると認知症にかかる人を35%減らすことができるというものです。加齢や遺伝子など、改善できないものが残りを占めます。つまり3割以上のリスクは生活習慣次第で改善が可能ということです。
「教育」「難聴」「高血圧」「肥満」「喫煙」「うつ病」「社会的孤立」「運動不足」「糖尿病」の9つリスク要因を改善することにより約35%程度で発症を遅らせたり予防する効果が期待できるとされています。2020年の報告ではこれに「過度の飲酒」「頭部外傷」「大気汚染」の3つのリスク要因が加えられ認知症に関連する12のリスク要因を改善することで、約40%程度で発症を遅らせたり予防する効果が期待できるといわれています。
改善できる要因の内訳
- 若年期:教育期間が短い(7%)
- 中年期:高血圧(2%)・肥満(1%)・難聴(8%)・頭部外傷(3%)・過度の飲酒(1%)
- 高年期:喫煙(5%)・うつ(4%)・運動不足(2%)・社会的孤立(4%)・糖尿病(1%)・大気汚染(2%)
そして何より、リスクうち60%は何が原因かわかっていません。そのためいつ認知症になっても支えあいながら暮らし続けることができるように、自分自身も、家族も、そして社会も「備えておく」ことが必要なのです。
認知症に関するQ&A
- 認知症ってアルツハイマー病のことですか?
- 物忘れ(記銘力障害)を中心とした記憶や判断力などの障害がおき、日常生活まで支障をきたすようになった状態が認知症です。その原因や病態によって、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症などの病名になります。認知症はこれらの総称といってもいいでしょう。アルツハイマー病は認知症の一疾患ということになります。
- 認知症と診断されたら、どんなことに気をつけて、準備すればよいですか?
- 認知症と診断されたからと言って、すぐに生活を変える必要はありません。生活環境を大きく変えると新しい環境に慣れるまで時間がかかったり、混乱したりします。まずは本人の住み慣れた環境やなじみの人間関係の中で、これまで通りの生活を続ける方法を考えましょう。治療の面では、抗認知症薬の服用と持病の適切な管理が大切です。生活面では、介護保険サービスの利用を検討してみましょう。本人の状況や今後の生活の希望を相談して、どのような準備ができるかを考えてみましょう。
- 認知症と診断されたら、一人暮らしは難しいですか?
- 認知症があっても一人暮らしをしている人はたくさんいます。むしろ、できることは自分で行うほうが、身体機能維持や本人の自信になります。初期の段階では大事なことはメモに残すなど、生活の工夫で一人での生活を続けることができます。また、介護保険サービスを利用することで、通所サービスでは他者との交流の機会を持つことができますし、訪問サービスでは生活のなかで難しいことに支援が受けられます。本人の望む暮らしの実現のために、様々な手立てが考えられます。早い段階から本人の意向を確認し、健康で安全に暮らせるように、介護サービスや家族・地域の見守りなど、必要なサポート体制を整えましょう。
- アルツハイマー病の治療はどのようなものですか?
- ・病態の進行を遅らせるための薬
アルツハイマー病によるMCI(軽度認知障害)と軽度認知症の方に使用する薬で、原因と考えられているアミロイドβを除去します。病気の早い段階から治療を行うことで、病気の進行を遅らせ、認知機能の低下を緩やかにすると考えられます。
・症状を緩和するための薬
認知症が発症してから使用する薬です。アルツハイマー型認知症の症状の進行を抑える目的で使用します。生活の困難さを軽減し、ご家族や介護する方の負担を軽くすることにもつながります。
- 認知症の方に日常生活でどのように接したらよいですか?
- 認知症の人は、不安を抱えながら生活しています。ですから、普段の接し方ではいかに安心感を持ってもらうかが重要です。表情、態度、言葉で不安を軽減するように心がけます。認知症の人には「真面目な顔は怖い顔」に見えます。ゆったりとした穏やかな雰囲気を作り笑顔で正面から認知症の人の顔を見ながら話しかければ安心感を持ってもらえます。論理的な説得は無効です。認知症の人は理解力の障害があります。短く簡潔にゆっくりと話しかけるとよいでしょう。また、認知症の人が迷ったり失敗したことに対して非難しないことも大切です。
- 認知症にならないためにはどうしたらいいのでしょうか?
- アルツハイマー型認知症の原因解明は進んでいますが、いまだ完全な予防法はお示しできないのです。現在危険因子といわれるもので予防不可能なものとして、加齢、家族歴、遺伝因子(アミロイド前駆体蛋白遺伝子、アポリポ蛋白E遺伝子)などがあります。予防可能な危険因子として、高血圧・糖尿病・高脂血症・甲状腺機能低下症などがあります。喫煙も危険因子であり、今のところ我々ができる予防としては生活習慣病の予防ということになります。そして、高齢になってからはソーシャルネットワーク、知的活動、運動が予防因子として注目されています。ひとりにならず、周囲の方との会話を楽しみ、自分らしい知的活動を続けることが、認知症発症予防になると考えられています。
アルツハイマー病治療薬レカネマブ(レケンビ)について
- レカネマブはどういう薬ですか?
- アルツハイマー病は脳の中にアミロイドβ蛋白というものが異常に蓄積してしまう病気といわれています。レカネマブは、このアミロイドβ蛋白を脳内から除去する働きがあります。それにより病気の進行が遅くなることが期待されています。従来の薬剤にはない、病気の原因に直接作用する新しい薬剤です。
- どういう方がレカネマブ治療を受けられますか?
- レカネマブは「アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)」と「アルツハイマー病による軽度認知症」に対する薬です。したがってその2つのいずれかの状態であることを確認してから治療を受けられるかどうかを決定します。認知機能障害の程度や生活障害の程度に関して厳格な規定がありますので詳細な検討をしたうえで適応を決めていきます。
特殊な治療のために現時点ではこの治療が行えるのは大学病院や基幹病院などの医療機関に限られます。前述の規定を満たすことがわかれば、当院からの紹介状をもって受診していただきます。
そこで、アルツハイマー病を診断するためのさらなる検査としてアミロイドPETや脳脊髄液検査などを行い適応決定されます。したがってすべての方が治療を受けられるわけではありません。
- 効果と副作用については?
- レカネマブはアルツハイマー病の原因を取り除く作用がありますが、これで完全に病気がよくなる、あるいは認知機能が改善して元の状態に戻ることではありません。
また、副作用についても気を付けないといけない点があります。アミロイドβを減少させる薬を使うと、アミロイド関連画像異常(ARIA)という副作用があらわれることがあります。脳からアミロイドβが除去されるときに、一時的に血液や血漿(血液中の水分などの成分)が血管の外に漏れだすことで起こるといわれています。それにより脳のむくみや脳の中で出血が起こることがあります。大半は無症状で経過しますが、0.6~0.8%の頻度で痙攣や意識障害などの重篤な副作用を引き起こすことがあります。
- レカネマブ治療の実際は?
- 治療は2週間に1回、1時間程度かけて点滴をします。通院頻度が多いことも注意を要します。使用期間は原則18カ月を目安に,医師が症状に基づき薬の効果や病気の進み具合などを確認し、レケンビでの治療の継続または中止を判断します。治療費は自費の場合は超高額治療です。しかし保険が適用されるうえ、国の「高額療養費制度」により実際の自己負担額の上限がきめられます。実際のレケンビによる治療の自己負担額の概算は、70歳以上の一般所得者層で月額18,000円が上限です。それ以外の医療費は考慮されておりませんので、詳細な医療費は、ご加入の保険者にご確認いただくことになります。