物忘れ・認知症
物忘れでお困りの方は相談してみてはいかがですか?
認知症は、加齢に伴い生じる高血圧などと同じようによくある病気です。
厚生労働省の発表では、65歳以上の約7人に1人は認知症で、2025年には高齢者数の増加に伴い約5人に1人が認知症になるといわれています。
物忘れ

物忘れ外来でどのようにして診断するのですか?

認知症診断のためにふさわしい質問や会話を通じて診断に必要な情報を得ます。付き添いの家族と本人に、症状や最近の生活の様子や飲んでいる薬などを聞きます。メモしておくとよいでしょう。身体所見を取るために神経学的診察を行います。長谷川式簡易認知症テスト(HDS-R)や、Mini-Mental Stae Examination(MMSE)などの記憶力や脳機能を判断する簡単なテストを行います。頭部MRI検査を行い脳の病状を画像診断し萎縮の程度なども評価します。必要時採血も行います。画像診断のみでは認知症診断はできません。臨床像全体をみて診断していきます。

認知症とは?

認知機能に障害があり生活に支障をきたす状態の脳の病気のことをいいます。認知症は基本的に脳の物質的な異常が原因となって起こる記憶障害(物忘れ)を主体とする病気です。その他に思考や判断力が低下したり、見当識が失われるといった認知機能障害が後天的に起こります。これらが6か月以上続くことも定義の一つです。さらに重要なことは物忘れやその他の症状が原因で社会生活や日常生活に支障をきたしている状態であるといことです。

「認知症」早期発見のめやすになる症状はどんなものですか?

日常診療でアルツハイマー型認知症の早期発見に役立つキーポイントは物忘れ(記憶障害)物事を順序立てて考えたり実行できない日時の見当がつかない自発性の低下・意欲の低下怒りっぽい(易怒性)があります。「同じことを何回も話す・尋ねる」「ものの置き忘れが増え、よく探し物をする」は記憶障害が疑われます。「以前はできた料理や買い物に手間取る」「お金の管理ができない」など物事を順序立てて考えたり実行したりできない実行機能障害が疑われます。記憶障害が生じてきて一番初めにわからなくなるのは時間に対する見当です。次に場所の見当がつかなくなります。「ニュースなど周りの出来事に関心がない」「意欲がなく、趣味・活動をやめた」といった意欲の低下は初期にみられることがある症状です。「怒りっぽくなった・疑い深くなった」場合は、物事がうまくいかない心理的な要因が影響していたり、不安感が増したり疑い深くなります。最近ではかかりつけ医が認知症の初期対応をしているケースも増えています。医療機関の受診を嫌がる場合は、まずかかりつけ医に相談し必要に応じて専門の医療機関を紹介してもらうとよいでしょう。どこで診てもらえばよいかわからない場合は、各市区町村にある地域包括支援センターに相談すれば、適切に医療機関を紹介してもらえます。
日ごろの暮らしの中で認知症の始まりではないかと思われる言動を「認知症の人と家族の会」の会員の経験からまとめたものです。

物忘れがひどい

・今切ったばかりなのに、電話の相手の名前を忘れる
・同じことを何度も言う・問う・する
・しまい忘れ置き忘れが増え、いつも探し物をしている
・財布・通帳・衣類などを盗まれたと人を疑う

判断・理解力が衰える

・料理・片付け・計算・運転などのミスが多くなった
・新しいことが覚えられない
・話のつじつまが合わない
・テレビ番組の内容が理解できなくなった
・約束の日時や場所を間違えるようになった
・慣れた道でも迷うことがある

人柄が変わる

・些細な事で怒りっぽくなった
・周りへの気遣いがなくなり頑固になった
・自分の失敗を人のせいにする
・「この頃様子がおかしい」と周囲から言われた

不安感が強い

・ひとりになると怖がったり寂しがったりする
・外出時、持ち物を何度も確かめる
・「頭が変になった」と本人が訴える

意欲がなくなる

・下着を変えず、身だしなみを構わなくなった
・趣味や好きな番組に興味を示さなくなった
・ふさぎ込んで何をするにも億劫がり嫌がる
医学的な診断基準ではありませんが、暮らしの中での目安として参考にしてみてください。いくつか思い当たることがあれば、かかりつけ医などに相談してみることがよいでしょう。

もの忘れがありますが加齢によるものですか?認知症ですか?

認知症の定義はわかりにくいのですが、簡単に言えば「脳の障害で物忘れなどの認知機能の低下が生じ、もともとできていた日常生活に支障が出た状態」と考えてよいでしょう。
年老いた身内が「昨日の夕食何食べたっけ」というようなことを言ってくると、「認知症かな」と心配になりますよね。「夕食をメニュー」ではなく「夕食を食べたこと自体」を忘れてしまうような物忘れが出たら、認知症疑いが強くなります。本人が忘れたこと自体を認識できていない様子が見られる場合は、病院に行くタイミングだなと思ってください。

認知症による物忘れ

・体験全体を忘れる(例:朝ご飯を食べたことを忘れる)
・ヒントを与えられても思い出せない
・時間や場所などの見当がつかない
・日常生活に支障がある
・物忘れに対して自覚がない

加齢による物忘れ

・体験の一部部を忘れる(例:朝ご飯何食べたか忘れる)
・ヒントを与えると思い出せる
・時間や場所などの見当がつく
・日常生活に支障はない
・物忘れに対して自覚がある
臨床の現場でも「今日はどういうことでお困りですか?」と尋ねても「私は困ったことはありません」と答えられることも多く病識がないのも特徴です。また、認知症(特にアルツハイマー型認知症)の方は理由にならない言い訳を言ったりして取り繕う様子がみられたり、発言するたびに同席者の方を向いて確認する振り返り徴候がみられます。「昨日の夕食は何を食べましたか?」と尋ねると「何食べたかな?」と隣の娘さんの方を向いたりします。このような兆候が認められたらまず認知症と考えてよいでしょう。礼節が保たれているのも特徴です。認知症が疑われた場合は医療機関を受診してみましょう。

認知症は治らない病気ですか?

認知症の症状を引き起こす病気は70種類以上あるといわれています。認知症の治療において、最初の診断はとても重要です。治療によって完治できる認知症もありますが、ほとんどの認知症は現在の医学では治すことができません。ただし進行を遅らせることはできます。

認知症の原因疾患が下記の場合完治できる可能性があります。

正常圧水頭症

脳室と呼ばれる髄液のたまっている場所が大きくなり脳を圧迫して起こります。認知症症状と歩行障害と尿失禁が特徴的な症状です。髄液を腹腔内に流してあげるシャント手術でよくなる可能性があります。

慢性硬膜下血腫

頭の打撲やケガなどの1~3か月後にゆっくりと頭蓋骨硬膜の内側に血がたまり血腫となり脳を圧迫することで起こります。30分程度の手術で血腫を洗い流すことで劇的に改善します。

脳腫瘍

脳にできた腫瘍により圧迫されて起こります。手術により治療可能です。

甲状腺機能低下症

新陳代謝を促すホルモンの低下で起こります。薬物療法が有効です。

ビタミンB1、B12欠乏症

ビタミンB1、B12が欠乏して起こります。薬物療法が有効です。

薬剤の副作用

ステロイド剤、胃潰瘍の薬などの副作用で起こります。薬剤を見直す必要があります。
認知症の症状に気が付いたら、すぐに医師に相談することが大切です。

認知症はどんな種類があるのですか?

認知症の原因になる病気はたくさんあるなかで最も多いのはアルツハイマー型認知症です。ほとんどの認知症は神経変性疾患あるいは脳血管障害が原因とされておりアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症が多く三大認知症と言われています。そのほかに前頭側頭型認知症があります。物忘れ外来ではそれらを鑑別してそれぞれにふさわしい治療を検討していきます。

アルツハイマー型認知症の特徴は?

・探し物が多い、同じことを何度も聞き返す(近時記憶障害)
・朝食の内容や昨日の行動が答えられない(エピソード記憶障害)
・日付や場所がわからない(失見当識)
・掃除の仕方や鍵の開け方がわからない(手段的ADLの障害)
・物忘れを取り繕うような言動がある(取り繕い)

認知症の症状は大きく2つに分けられます。
脳の細胞が壊れることによって直接起こる症状を「中核症状」、本人の性格や環境などが絡み合って生じる二次的な症状を「行動・心理症状(BPSD)」といいます。

中核症状:記憶障害・実行機能障害・失見当識障害・理解・判断力低下
行動・心理症状(BPSD):幻覚・妄想、不安・焦燥、徘徊、興奮、暴力、不潔行為、うつ

認知症にならないように予防ができますか?

現時点では認知症を根本的に治せる薬はありません。だからこそ、「ならないようにする」ことが重要です。認知症の一番の要因は加齢変化なので、完全に予防しきれるものではありません。
聞こえが悪いと情報が入りにくくなりコミュニケーションがしづらくなり、認知症のリスクの要因となります。社会参加がないことも脳に刺激がなくなるのでリスクにつながります。難聴は最大の危険因子とされており補聴器の使用を奨励し、過度の騒音曝露から耳をまもりましょう。頭部のけがから脳をまもる必要があります。その他は実はそれほど意外なものではありません。喫煙、過度の飲酒をさけて、適度な運動を行い、肥満にならないような適正体重を保ち、高血圧や糖尿病があれば管理をしていくことが重要です。一般的に言われている健康的なライフスタイルを送っていれば、認知症のリスクは低くなるということです。

認知症予防の12のポイント

2017年国際的に権威のある「ランセット」という医学雑誌で認知症リスクについての発表がありました。生涯にわたる認知症リスクのうち、喫煙、抑うつ、運動不足などを改善できると認知症にかかる人を35%減らすことができるというものです。加齢や遺伝子など、改善できないものが残りを占めます。つまり3割以上のリスクは生活習慣次第で改善が可能ということです。
「教育」「難聴」「高血圧」「肥満」「喫煙」「うつ病」「社会的孤立」「運動不足」「糖尿病」の9つリスク要因を改善することにより約35%程度で発症を遅らせたり予防する効果が期待できるとされています。2020年の報告ではこれに「過度の飲酒」「頭部外傷」「大気汚染」の3つのリスク要因が加えられ認知症に関連する12のリスク要因を改善することで、約40%程度で発症を遅らせたり予防する効果が期待できるといわれています。

改善できる要因の内訳

若年期:教育期間が短い(7%)
中年期:高血圧(2%)・肥満(1%)・難聴(8%)・頭部外傷(3%)・過度の飲酒(1%)
高年期:喫煙(5%)・うつ(4%)・運動不足(2%)・社会的孤立(4%)・糖尿病(1%)・大気汚染(2%)
そして何より、リスクうち60%は何が原因かわかっていません。そのためいつ認知症になっても支えあいながら暮らし続けることができるように、自分自身も、家族も、そして社会も「備えておく」ことが必要なのです。

認知症と診断されたら、どんなことに気をつけて、準備すればよいですか?

認知症と診断されたからと言って、すぐに生活を変える必要はありません。生活環境を大きく変えると新しい環境に慣れるまで時間がかかったり、混乱したりします。まずは本人の住み慣れた環境やなじみの人間関係の中で、これまで通りの生活を続ける方法を考えましょう。治療の面では、抗認知症薬の服用と持病の適切な管理が大切です。生活面では、介護保険サービスの利用を検討してみましょう。本人の状況や今後の生活の希望を相談して、どのような準備ができるかを考えてみましょう。

認知症と診断されたら、一人暮らしは難しいですか?

認知症があっても一人暮らしをしている人はたくさんいます。むしろ、できることは自分で行うほうが、身体機能維持や本人の自信になります。初期の段階では大事なことはメモに残すなど、生活の工夫で一人での生活を続けることができます。また、介護保険サービスを利用することで、通所サービスでは他者との交流の機会を持つことができますし、訪問サービスでは生活のなかで難しいことに支援が受けられます。本人の望む暮らしの実現のために、様々な手立てが考えられます。早い段階から本人の意向を確認し、健康で安全に暮らせるように、介護サービスや家族・地域の見守りなど、必要なサポート体制を整えましょう。

認知症の方に日常生活でどのように接したらよいですか?

認知症の人は、不安を抱えながら生活しています。ですから、普段の接し方ではいかに安心感を持ってもらうかが重要です。表情態度言葉で不安を軽減するように心がけます。認知症の人には「真面目な顔は怖い顔」に見えます。ゆったりとした穏やかな雰囲気を作り笑顔で正面から認知症の人の顔を見ながら話しかければ安心感を持ってもらえます。論理的な説得は無効です。認知症の人は理解力の障害があります。短く簡潔にゆっくりと話しかけるとよいでしょう。また、認知症の人が迷ったり失敗したことに対して非難しないことも大切です。