日本には約4,300万人もの高血圧患者さんがいると推定されています。そのうちの約44%つまり1,900万人近くの方が適切な治療を受けていないといわれています。高血圧は基本的には無症状です。そのため「最近、ちょっと血圧が高いといわれたけど、特に症状もないし」と放置してしまう方が少なくありません。ほとんど自覚症状がないまま静かに進行し、ある日突然心筋梗塞や脳卒中といった命にかかわる病気を引き起こすことがあります。高血圧が「サイレントキラー(沈黙の殺人者)」と呼ばれる所以です。日本では、高血圧が原因となる病気で年間約17万人が亡くなっていると推定されています。
高血圧とは
私たちの心臓は1日に約10万回も拍動し、血液を全身に送り出しています。血圧とは、血液が心臓から送り出されたときに血管の壁にかかる圧力のことを言います。この圧力が高くなりすぎる状態が高血圧です。
高血圧の診断基準をチェックしましょう!
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高血圧(mmHg) |
高値血圧(mmHg) |
| 診察室血圧 |
上 |
140以上 |
130~139 |
| 下 |
90以上 |
80~89 |
| 家庭血圧 |
上 |
135以上 |
125~134 |
| 下 |
85以上 |
75~84 |
高値血圧とは、高血圧の一歩手前の段階を指します。
上の血圧とは心臓が収縮したときに血管の壁にかかる圧力で収縮期血圧のことで、下の血圧とは心臓が拡張したときにかかる圧力で拡張期血圧です。
家庭血圧の重要性がさらにアップ
家庭血圧は診察室血圧よりも日常の生活を正確に反映します。
特に朝の血圧(起床後1時間以内)は、脳卒中や心筋梗塞の発症リスクに深く関係することがわかっています。
家庭血圧のはかり方
1日に朝と夜2回測定し、平均値を記録しましょう。
- 朝:起床後1時間以内、朝食前、排尿後に測定
- 夜:就寝前に測定 入浴直後飲酒直後は避ける
高血圧の症状は?
残念ながら、高血圧には初期段階ではほとんど自覚症状はありません。そのため「最近、ちょっと血圧が高いといわれたけど、特に症状もないし」と放置してしまう方が少なくありません。
しかし、高血圧は将来の「脳卒中(脳出血・脳梗塞)」「心臓病」「腎臓病」「認知症」といった重篤な疾患の発症リスクを高めることがわかっています。
高血圧の原因は?
血圧が高くなる主な要因は3つある
1.血液量が増える
食塩の取りすぎなどによって体内の水分量が増加すると、それに伴い血液量が増え、血管にかかる圧力が高まる。
2.血管が収縮し細くなる
血管が収縮すると、血管の壁が厚くなくなり、同時に血管自体が細くなる。血管の内部の内腔が狭くなり、圧力が高まる。(末梢血管抵抗が上昇する)
3.血管が硬くなる(動脈硬化)
加齢とともに血管の壁の柔軟性が低下する、すると、血管が拡張・収縮しにくくなり、血管の壁にかかる圧力が高くなる。
高血圧の原因には、原因が特定できない本態性高血圧と他の病気によって引き起こされる二次性高血圧があります。日本人の約9割は本態性高血圧で、体質や生活習慣などの環境因子がその発症に関わっているとされています。
高血圧になる習慣
塩分過剰摂取・運動不足・たばこ・ストレス・睡眠不足・食べすぎによる肥満・アルコールの飲みすぎ
二次性高血圧
原発性アルドステロン症などの内分泌性疾患・腎臓関連疾患・睡眠時無呼吸症候群など
高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」の降圧目標
新たなガイドラインでの血圧の基準は、130/80mmHg未満を目標に
2025年7月に日本高血圧学会が最新の「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」を発表しました。従来の高血圧治療ガイドラインに「管理」という言葉が加わり、薬で血圧を下げるだけではなく、日常生活での血圧測定や生活習慣の改善が治療の柱になりました。高齢者でも130/80mmgHg未満を目指すことで、脳卒中・心臓病の予防効果が高まることが研究で示されました。
【すべての高血圧患者さんの目標値】
| 診察室血圧 |
130/80mmHg未満 |
| 家庭血圧 |
125/75mmHg未満 |
これまでは年齢(75歳以上・75歳未満)や病気(糖尿病や慢性腎臓病や脳血管障害合併など)によって異なっていた目標が、全年齢で同じ数値に統一されました。
高血圧の人では、年齢にかかわらず、血圧130/80mmHg未満まで下げると、それ以上の血圧に比べて、脳卒中や心臓病が少なくなります。
個別に考えて対応が必要な方
降圧目標血圧が130/80未満になりましたが、患者さんの疾患や病状によって個別に考える必要があります。
以下の方は、医師と相談しながら個別に目標血圧を調整します。
- 両側や複数の脳や首の太い血管が高度に狭いところがある患者さん
- 腎機能が比較的高度に低下している患者さん(急激な血圧低下で腎臓に行く血流が下がり、腎機能が悪化することあります。)
- ご高齢の虚弱な状態の方
- 血圧低下に伴うと思われる立ちくらみやめまいが頻回に起こる方
高血圧を放置しておくとどうなる?
高血圧を放置すると、血管や臓器に慢性的な負担が蓄積されます。
- 心臓:心肥大、冠動脈疾患・心不全・心房細動のリスクの増加
- 脳:脳卒中や認知症、記憶障害の進行
- 腎臓:腎機能の低下から腎不全へ
- 大動脈:大動脈瘤・大動脈解離や動脈硬化の進行
2025年のガイドラインでは、脳の健康や認知症予防のためにも早期からの血圧管理する意義が強調されています。
脳神経外科医がみる高血圧
当院に通院されている患者さんは脳卒中を起こされた方が多くいらっしゃいます。高血圧は脳卒中の最大の危険因子といわれています。
脳出血の原因は多くは高血圧であり、血圧コントロール不良例での再発が多く、慢性期では130/80mmHg未満を降圧目標として管理します。脳出血再発リスクが高い場合では120/80mmHg未満を降圧目標とした、より厳格な血圧管理を行います。脳微小出血(MBs)合併例や抗血栓薬(サラサラの薬)治療例は脳出血再発のリスクが高く厳重な管理が必要です。当院では頭部MRIで定期的にフォローし脳卒中の再発や脳微小出血(MBs)の評価を行っています。
また、脳梗塞の再発予防には降圧療法が推奨されています。脳梗塞のうちラクナ梗塞では血圧130/80未満に管理します。脳梗塞の患者さんのほとんどが脳梗塞再発予防を目的として抗血栓薬を服用しています。本邦で行われた研究(BAT study)では抗血栓薬服薬中の患者さんで、まれに脳出血を発症することがあり、血圧が低いほど脳出血の発症率が低いことが報告されており、抗血栓薬服薬中は血圧130/80mmHg未満に管理します。両側や複数の脳や首の大きな血管が細かったり詰まっている場合は、140/90未満を管理目標にすることがあります。頭部MRAで血管の状態を確認し、必要に応じて血流評価を行いや血行再建術の有無など総合的に判断して個別に血圧管理を行っています。
高血圧の治療方針
高血圧の治療は高圧目標を目指して「降圧薬による治療」と「生活習慣の改善」の2つに分かれて行われます。
生活習慣を改善するための具体的な対策
食塩制限:1日6グラム未満を目標
具体的な減塩の工夫:
麺類の汁は残す・具たくさんの味噌汁にする・加工食品や外食を減らす・醤油やソースは「かける」より「つける」・酢/レモン/香辛料/だしで味付けに工夫・減塩の調味料の活用・新鮮な食材本来の味を楽しむ
新ガイドラインではカリウム摂取もポイントに。カリウムを多くとっていると塩分の成分であるナトリウムが排出されます。
カリウム摂取量:成人男性は1日3.0g以上、成人女性は2.6g以上が目標
カリウムを多く含む食品:
野菜(ほうれん草・小松菜・ブロッコリー他)・果物(バナナ・キウイ他)・海藻類・いも類・大豆製品などを積極的に食べること
※カリウム制限が必要な腎障害患者の野菜・果物量や肥満や糖尿病患者での果物摂取量についてはかかりつけ医との相談が必要です。
ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を毎日30分以上することに加え、スクワットや腕立て伏せなどの筋力トレーニングを1日20分、週に2、3回程度実施。運動により収縮期血圧が平均5~10mmHg低下することが報告されています。
最近は肥満に伴う高血圧が増えています。BMIを25未満に保つことが推奨されています。体重を1kg減らすと、収縮期血圧が約1~2mmHg低下するとされています。
飲酒量を減らすことも重要です。男性は1日あたりエタノール換算で25g以下に制限(日本酒で1合、ビール500ml、ワイングラスで1.5~2杯程度)まで、女性はその半分ほどが目安です。休肝(酒)日を設定する。
喫煙は血圧上昇させるだけではなく、動脈硬化を促進します。禁煙は血圧管理において極めて重要です。
慢性的な緊張状態やストレスは交感神経を刺激し、血圧を上昇させます。十分な睡眠時間の確保や趣味の時間、リラックスできる環境づくりを心がけましょう。
室温が10度下がると、収縮期血圧が平均8~10mmHg上昇するとされています。冬に血圧が上昇する大きな理由は寒さによる血管の収縮です。室温管理を徹底するなどの工夫で寒さ対策をしておきましょう。
医療機器などに承認されたアプリなどを使って管理することも推奨されています。
高血圧の薬物療法
降圧薬にはいろいろなタイプがあり、第一選択薬となる降圧薬は主に5種類です。この中から患者さんの年齢、持病、既往症、副作用、血圧をあげている要因などを考慮して、もっとと適切な薬が選び出されます。最初は1種類の薬が処方されます。国内で最も多く処方されているのはカルシウム拮抗薬で、2番目に多いのはARBです。
当院で処方されている降圧薬は脳血管障害後に積極的適応があるカルシウム拮抗薬かARB、あるいはその併用であることが多いです。
血液中のカルシウムが血管の壁に入ると血管が収縮して血圧が上がります。カルシウムが血管に働きかけるのを阻害し、血管を広げて血圧を下げます。
強力な降圧作用と臓器血流保持効果に優れるため、第一選択薬として用いられることが多い薬です。
アムロジピン(ノルバスク®)、ニフェジピン徐放剤(アダラートCR®)、シルニジピン(アテレック®)他
アンギオテンシンIIのはたらきを抑え、血管を拡張させて血圧を下げます。
臓器を守る作用があるとされており、心臓や腎臓の機能を保護する作用が知られています。
アジルサルタン(アジルバ®)、オルメサルタン(オルメテック®)、テルミサルタン(ミカルディス®)他
アンギオテンシンIIを作る酵素のはたらきを抑える作用があります。それにより血管を拡張させて血圧を下げます。降圧効果はやや弱いが、臓器保護効果に優れています。
エナラプリル(レニベース®)、イミダプリル(タナトリル®)他
体内の塩分と水分を尿として排出させる働きがあります。それにより血液量が減って血圧が下がります。
トリクロルメチアジド(フルイトラン®)他
心拍数をあげるホルモンの働きを抑える働きがあります。それにより心臓が送り出す血液量を減らして血圧を下げます。心臓の負担を軽減する効果もあります。
カルベジロール(アーチスト®),ビソプロロール(メインテート®)
最近の新しい降圧薬
腎臓の上にある副腎で分泌されるアルドステロンというホルモンは、血圧の上昇に関わっています。MR拮抗薬はこのホルモンのはたらきを抑えることで血圧を下げます。
ARBの血管拡張作用に加え、体内から塩分を排出させる作用がある降圧薬。もともと心不全の治療薬として開発されたもの。